異世界で家庭菜園やってみた
「おばあさま。お呼びと聞いて参りましたが?」

振り向くと、そこにはこの世界には珍しい黒髪の美少年が立っていた。

さらさらと柔らかそうな黒髪を短く切り揃え、白シャツにゆったり目のパンツ。飾らない感じに好感が持てる。

何となくハーフっぽい顔立ちなのは、やはりそう言うことなのだろうか?

「あの、コウメさまのお孫さん?」

「ええ、そうよ。ウリエルというの。仲良くしてやってちょうだいね」

ぱちりとウィンクまでして、コウメさまはホホホと笑った。

「あれ、もしかして、その子……」

ウリエルも一目で気付いたのだろう。

少しびっくりした顔で、コウメさまを見た。

「ええ、日本から来たのよ。ユーリというの」

まるで「アメリカから来たの」くらいの気安さでコウメさまは言うと、ウリエルにユーリを市場に連れて行き、その後も彼女の手伝いをしてやってほしいと事細かに指示した。

「おばあさまの同郷の人なら、もちろんお手伝いしますよ。よろしく、ユーリ」

アシュラムとは違い神々しさはないけれど、親しみやすいその美少年スマイルに、悠里の心はすっかりトロトロに溶かされていた。

(だめよ。しっかり、悠里)

美形を見ればほだされる。このイケメン好き、自分でもどうにかしたい!

そんな悠里の葛藤など知る由もなく、ウリエルは「じゃあ、行きましょうか」と悠里を促している。

「お昼には戻れるかしら?ご飯、用意しておくわね」

「はい。おばあさま」

素直な孫に、コウメさまは嬉しそうにキスをして、悠里にも「気を付けて」と言ってくれた。

「はい。行って来ます」

「市場でいろんな物を見てくればいいわ。楽しいわよ」

「はい。ありがとうございます。コウメさま」

悠里は会釈して、すでに庭の入口まで言っているウリエルを追いかけた。

「市場か~」

これって、もしかして……。

この世界に来て、初めての自由?

そう思った途端、悠里の中に、このお出かけを歓迎する気持ちが生まれていた。

初対面の人だけれど、彼は日本人の血を引いている。

そのことも、悠里の気持ちを楽にさせているのかも知れなかった。

「ウリエルさん、急にすいません。わたしのこと、頼まれちゃって、迷惑でしたよね?」

前を行くウリエルに、悠里は遠慮がちに声を掛けた。

「え?なんで?」

「何でって、ウリエルさんにも用事があったかなって思って……」

「ああ。別に気にしなくていいよ。君が召喚されたって話は聞いていたし、いつかは紹介されるだろうって思っていたから。……まあ、まず最初に市場に一緒に行けって言われるとは、さすがに思わなかったけれど」

「はあ、ですよね……」
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