キミさえいれば
そんな先輩の元カノの存在を知った数日後。


いつものように生徒会室に向かうと、扉が10cmほど開いている事に気づいた。


誰かいるのだろうかと中を覗くと、黒崎先輩の姿が見えた。


この頃先輩は忙しくて、二人で話すチャンスが全くなかったから。


久しぶりに話せる……!


そう思ってドアノブに手をかけた時だった。


あれ?


もう一人誰かいる。


先輩の向かいに立つ、髪の長い女性。


あれは……。


「綾香」


そこにいたのは、先輩の元カノの綾香さんだった。


先輩、綾香さんを呼び捨てにした。


そんな呼び方をするってことは、二人は本当に付き合っていたんだね……。


「ねぇ、保。

私達、やり直せないかな?」


ドクン、と。


心臓が大きく波打った。


うそ……。


綾香さんって、まだ先輩のことが好きなの……?


続く沈黙。


しばらくして、黒崎先輩の深いため息が聞こえた。


「今さら何?

そっちが好きな人が出来たから別れようって言ったんじゃないか」


「あの時は、本当にごめんね。

あれは、私の勘違いだった。

やっぱり私が一番好きなのは保なの」


やっぱりって……。


綾香さんは、先輩と別れたことを後悔しているの……?


「俺があの時、どれだけショックを受けたと思ってんだよ」
 

そうだよね。


付き合ってる人から、突然他に好きな人が出来たから別れようって言われたら悲しいよね。


先輩はきっと、綾香さんのことがすごく好きだったんだろうな。


その思いが伝われば伝わるほど、私の胸がチクリチクリと針を刺したように痛くなるのは、どうしてなんだろう。
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