そばにいたこと
第3章 君のいない世界

失踪

でもそんな日々は、長くは続かなかった。
分かっていた。
彼女の病気は、そんなに甘いものではない。

ある日、一緒に帰っていた沙耶の足取りがゆっくりになり、そして、止まった。

「伊藤、どうした?」

「ん……。」

彼女は必死で何かを堪えているようだった。
きっと、それまでもそうだったのだろう。
僕が気付かなかっただけで。
いや、気付かないふりをしていただけで。

病魔は彼女を確実に蝕んでいた。

彼女の肉体を、精神を、徐々にぼろぼろにしていった。


「大丈夫?」

「……うん。」

「ちょっと休もうか。」


落ち着いているように振舞いながら、僕は実際、どうしたらいいか分からなかった。
苦しそうな君が、何に耐えているのかさえ分からないまま。
背中をさすっても、君が本当に痛い場所には届かない気がして。


「もう、……大丈夫だよ。ごめんね!春岡くん。」


大丈夫ではなさそうな彼女は、わざと明るい声で言う。
僕は、そんな君の声に、胸を締め付けられる。
でも、そんな君の健気な気持ちに応えたくて、僕も一生懸命に笑っていたね。

「そっか。大丈夫か。……じゃあ、行こう。」

「うん。」

折れそうに細い君の手を握る。
君はどんどん小さくなる。
きっと、食欲なんてないんだろう。

最近、君の手を握ると、火のように熱いことがある。
我慢しているけれど、君はきっと毎日、僕には計り知れない壮絶な世界を生きていたんだね。


そんな日が続いて、ある日君はぱたりと学校に来なくなった。
僕には一言も弱音を吐かないまま。

この時、僕は気付くべきだったんだ。
僕は君を、苦しめる存在であることを。
愛し合えば愛し合うほど、君と僕とは離れていく。
そのことに、気付くべきだった。

今さら何を言っても遅いけれど。
僕は、ただひたすらに君を愛する以外の方法で、君をこの世に留めておく手段を知らなかったんだ。
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