そばにいたこと

祖母の家

暗くなってから着いた祖母の家。

日本家屋で、温かみのあるその家から、オレンジ色の光が漏れていた。



まるで、小学生の頃と変わっていなかった。


あの頃と同じように、僕は迷いながら、ここにたどり着いた。


あの頃と同じ、心細さを抱えて。



インターフォンのないその家。

僕は、玄関の扉を軽くノックする。



「こんばんは。」



しばらくして、足音がして。



「開いてるよう。」



そう声がした。

僕は、扉に手を掛けると、ガラッと横に引いた。



「こんばんは。」



「あらら、颯太じゃないか。どうした?」



「しばらく、ここに泊めていただけますか?」



「いいけども……あらっ、」



僕の隣に、車椅子に乗った君の姿を見付けて、さすがの祖母も目を見開いた。



「そちらは、」



「伊藤です。伊藤、沙耶、です。」



君は、突然車椅子からすくっと立ち上がって、言った。



「沙耶さんかいな。おお、分かったで。早くお入り。寒かっただろう。」



祖母は、温かい手で僕の背中を押した。

そして、また座った君の車椅子を、僕よりも器用に押して中に入れてくれた。



「さ、夕餉はまだだろう?残り物で悪いけれど、今あっためるから待ちいや。」



祖母は、こたつのそばで僕たちを二人にして、台所に行ってしまった。

僕は沙耶を導いてこたつに足を入れさせて、その隣に僕も入った。



「ごめん。何も言わなくて。ここ、僕の祖母の家なんだ。」


「うん。」



君は頷いただけで、それ以上何も言おうとしなかった。

その思い詰めた表情を見ていたら、今になって僕がしたことの重大さに気付き始めて。

でも、その気持ちを肯定することはあまりにも苦しかったから。

僕は敢えて、気付かないふりをした。




この時ならまだ、引き返せたかな。




僕が間違えて、君を連れて迷い込んでしまった袋小路から、君だけでも救い出せばよかった。




例え僕が、君の分まで苦しむとしても―――――
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