彼が虚勢をはる理由





「…全く、夏野も困ったものね。このままじゃ、すぐに呼び出し食らっちゃうわよ」


担任の小さな呟きが聞こえる。
どうやら、私と同じ事を考えていたみたい。

HRは特に連絡事項も無く、簡単に終わった。担任が教室を出て行く。
私はそのまま、一時間目の英語のリーディングの授業の準備を始めた。
昨日は眠かったけど、予習頑張ったから、きっと大丈夫だよね。
分からない英単語も、全部調べてある。


机の上に電子辞書を置いたら、遅刻を免れた安心感から、急に眠たくなってきた。
昨日もあんま、眠れてないしなぁ…。

私が欠伸をしてると、机の端にトンと缶コーヒーが置かれた。
見上げると、同じ缶コーヒーを持ったハルが、ニコニコと笑ってる。


「ダッシュお疲れ、香苗。コーヒーは奢りね」

「……妙に気前良いね、ハル。何かあったの?」


ハルは、私が二週間前に貸した漫画本を五冊、開かれた英語ノートの上に置いた。
最近人気の映画の、原作にあたる漫画の、単行本シリーズだ。


「これ、ありがとう。面白かったよ。コーヒーは御礼ね」

「…何で私が、コーヒーが欲しいって思ったの?」





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