彼が虚勢をはる理由
04. 彼が虚勢をはる理由

いち。






「夏野ー」


斜め前の席の夏野君からは、全く反応は無い。


「夏野-、……夏野~?」


黒板の前でチョークを持つ先生が、嫌そうに顔を顰める。

今は現代文の授業中。
午後の授業だから眠くなるのも分かるし、実際に寝てる人もチラホラいるんだけど、斜め後ろから見る限り、夏野君は突っ伏してる様子は無い。

クラスの何人かが夏野君の方を振り向いて、少し驚いた顔をしている。
顔を顰めた現代文の先生も、夏野君の方を見て驚きの表情に変わる。


「…夏野、オマエ起きてんの? 起きてるなら返事しような」


どうやら、夏野君は前を向いたまま寝落ちしてるとかではなく、ちゃんと起きてるのに反応が無いらしいのだ。
意識を失ってる可能性という、説明しようがない危機感が、教室を巡る。


「…夏野~、起きてるの-?」

「……はい?」


現代文の先生が恐る恐る再び声をかけると、夏野君はようやく反応した。
教室中から小さく、けれど沢山の安堵の溜め息が聞こえてくる。


「夏野、この問題なんだが……」


先生が夏野君に問題を答えさせようとして、授業は無事に再開した。
私も少し安心して、頬杖をつく。





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