【完】そろり、そろり、恋、そろり
まさかとは思っていたけど、本当に一緒だなんて……。道理で家は目の前なのに、未だに一緒なわけだ。


「……目的地は一緒ですし、一緒に帰りましょうか」


そう言った彼からはさっきまでの苦笑は消えて、親しみやすいやわらかな笑顔に変わっていた。


「そうだね、どうせ一緒なんだから、そうしようか」


彼の提案をここまできて断る理由もなく、一緒に帰ることにした。いつもの私なら、今日出会った人に家を知られるなんて、気持ち悪くて無理だと思っていたけど、なんとなく彼ならいいかなって。


きっと友人の披露宴招待状をみて、独り身な事をすごく虚しく思っていたから。出会いがない、出会いがないって思っていた矢先に起こった、偶然が重なっての出会いだったから。だから、こんな枯れている私に舞い降りた奇跡だと思った。


……このまま終わらせたくない。そう強く思った。





駐車場を突っ切りまずはアパート……光ヶ峰ハイツの入り口へ。そして、また2人揃って足を止めた。だって階段に向かう私の隣には、未だに彼がいる。


「……私ね、もしかしてって思っていることがあるの」


「何ですか?」


彼は話を聞こうとはしているけれど、なんとなく言いたい事が分かっているような表情をしている。


「私ね、お隣さんとだけは出会ったことがないの。他の2階の住民は、なんとなく知っているんだよね……もしかして、拓斗君って201号室?」


私が住んでいるA棟は2階建て。そして、各階には6部屋づつあって全部埋まってる。そして、ここ最近は住人の移動もあっていない。同じ2階って事は、そうなるよね?


唯一会ったことがないのが、201号室の住人。生活時間帯が違うからなのか、なぜか一度も出会わない。201号室の人は私より前からここに住んでいて、私がここに住んで2年になるというのになぜか一度も出会わない。


私には見えない仕様になっているんじゃないかって、バカなことを考えるくらいに不思議なことだった。


「そうですけど……え?お隣って……え?」


目の前の彼は、本気で驚いている。そして、未だにちゃんと飲み込めていないみたい。なんでも完璧そうな見た目なのに、どこか抜けているようなそんな雰囲気が可笑しくて、声を出して笑ってしまった。


「…ははは……よかった、ちゃんと私にも見えた」


「……え?どういう事ですか?」


ただでさえよく分かっていないだろう彼を無視するように、私1人自己完結してしまった。ますます分からないという顔になってしまった。
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