【完】そろり、そろり、恋、そろり

初めてのデート side:M

拓斗君に付き合ってもらい、久しぶりに買い物もした。映画を観て、買い物して、定番のデートでも心が満たされていくのが分かった。それくらいに久しぶりのことで、相当私の心は枯渇していたらしい。


今日は何もかも楽しくて、頬が緩みっぱなしで、周りからみたらきっとだらしない表情をしているんだろうな。


私の買い物をした後は、今度は拓斗君の出かけたいところ。本屋に寄りたかったらしい。


「どうしますか?俺は医学書のコーナーに行きますけど、どこか見てきます?」


彼の提案にどうしようかと悩んだ。特に今は買いたい本もないし……


「付いていってもいい?待ってるから」


付いていくなんて、少し煩わしいかなとは思う。けれど、彼の探し物を眺めているだけでも、今よりももっと彼のことを知れるんじゃないかと思った。


「退屈だと思いますけど……麻里さんが良ければ」


心配した嫌な素振りはなく、すっと歩き始めたから、私はゆっくりと彼の後を追った。こうやってプライベートで出かけていても、顔を出す仕事の存在が恨めしいようで、そこまで一生懸命に働く拓斗君は素敵だなと思う。今まで私の周りには居なかったタイプだ。


仕事に誇りをもった、いかにも“働く男”という雰囲気は、人としても尊敬する。
彼が立ち止まったコーナーに並ぶ本を私も眺めては見るけれど、もちろん良く分からない。中には先ず持って読めないものもある。


そんな中から、一冊の本に手を伸ばすとパラパラとページを捲り中身を確認し始めた。そして、首を捻り難しい顔をしたかと思うと、手にとっていた本を棚に戻し、今度はその2冊隣の本を取り出す。その動作を何回か繰り返したあとに、拓斗君は少し微笑んで小さく頷いた。


「……見つかった?」


彼の表情からきっと欲しい物をみつけたんだなって事は一目瞭然。私の問いかけに、手元の本を見ていた視線を私に移して、拓斗君は先程より少し大きく頷く。


「ええ、これに決めました」


探し物が見つかって嬉しそう。私は微笑を返した。
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