黄昏時に恋をして
結婚式
 それからというもの、私は恥ずかしさのあまり意識的に戸田さんを避けていた。私の態度を察してか、おばさん方も真奈美さんも、冷やかすような発言はしなくなった。それでも日々は続いていく。告白をして玉砕した日はさすがに泣いたけれど、後を引きずることもなかった。
 忙しく毎日が過ぎていき、春競馬の時期になった。全ホースマンの目標であるダービーで、ついに熊谷さんが初優勝を飾り、ダービージョッキーになった。ウィナーズサークルで記念写真を撮る時に、真奈美さんを呼んでプロポーズをした。熊谷さんは、逃げていたわけでもなく、結婚したくなくて先送りにしていたわけでもなかった。本当は、早く真奈美さんと結婚したかったに違いない。『待たせてごめん』と言った時、あまりにもカッコ良すぎて、私が泣いてしまった。
 ふたりの結婚式には、私も招待された。真奈美さん曰く『いろんな事情』で、真奈美さんの仕事関係者が座る円卓に、なぜか戸田さんの席があった。普通なら、熊谷さんの騎手仲間の円卓に座るはずなのに、私の隣に座っている。嬉しいような、嬉しくないような。
 真奈美さんは和装と、お色直しに純白のウェディングドレスを着ていたけれど、まるでフランス人形のようだった。感動のあまり、私が泣いていた。そんな私に、戸田さんがテーブルの下からそっとハンカチを差し出してくれた。その優しさにさらに泣きそうになるのを、グッとこらえた。
「他人でこんなに泣いていたら、自分の時はどうなるんだろうね」
 失恋相手から、そんな風に言われるなんて。どんな意図があって、戸田さんがそう呟いたのかわからない。でも、春の日差しのような柔らかな笑みは、私を不快にさせることはなかった。これが、惚れた弱味と言うものだろうか。
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