齧り付いて、内出血

浴室からするシャワーの音を聞きながら、この部屋に置いていってる久世のスウェットを脱衣所に用意しておく。

そのへんで売ってそうななんてことないスウェットなのに特別に大事なものに思えてしまう自分が嫌だ。


久しぶりに聞く、他人がお風呂に入る音。

薄れかけてた久世の匂い。


どきどきするこの胸の音は、動物の本能に正直だ。

だけど人間の理性が、行動を制御する。


恋をしたい本能の私。
恋をしたくない理性の私。


まだ引き返せる、まだ大丈夫。

男に惑わされて、時間を無駄にしたくない。


がちゃっ、とドアノブを捻る音がしてはっと我にかえった。

「風呂、どうも。それとスウェットも。」


タオルを首にかけて濡れた髪はぺちゃんこ。

そんなオフモードの姿でさえ――思考シャットダウン。

考えるのはよそう。

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