苦恋症候群
「課長すみません、コンビニでお昼買ってきます」

「いってらっしゃ~い」



壁に掛けてある時計を確認したら、ちょうど12時をまわったところだった。

財布を持って立ち上がった私に、寺沢課長がひらひらと片手を振る。

かくいう課長は、すでにデスクの上で愛妻弁当を広げていた。



「あ、今日は鶏そぼろ弁当だ。しかもハート型!」

「へへへ」

「いつまでもラブラブですね~」



ちゃっかりお弁当を覗き込む私に、嫌な顔ひとつせず寺沢課長がニコニコ笑う。

たしか課長、結婚してから15年くらいだっけ。そんなに経ってもラブラブって、うらやましい。



「あー熱い熱い。ひとり者はさみしくコンビニ行きますよーっ」

「ははは、気をつけてね~」



わざとらしく顔を片手で仰ぎながらドアノブを掴んだ私の背中に、課長の間延びした声がかかる。

ありがとうございまーす、とこちらも間延びした調子で返して、廊下へと出た。
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