苦恋症候群
不覚にも、きゅんと胸の奥が、切なく鳴った。

お面の下に隠れた目もとが、じんわり熱くなる。


ああ、ずるいなあ。こんなのずるいよ、三木くん。

ぶっきらぼうだけど。言い方は淡々としてるけど。

背中が、あたたかい。



「……三木くん」



控えめに彼の肩を掴んでいた手を、首に回した。

さっきまでよりも身体が密着して、三木くんの短い髪が、お面では隠れない首筋をくすぐる。



「ありがとう、三木くん」



無言の彼に、また言葉を重ねた。



「あり、がと……」



こんなに近いと、届いてしまうだろうか。

クレマチスの浴衣の奥の、いつもより少しだけ速い私の心臓の音。



「……べつに」




ねぇ、だけど、今だけなら、届いてしまってもいいって。

そのときの私は、そう思ってしまったの。
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