苦恋症候群


◆ ◆ ◆


「……お疲れさまです」



月曜日。1日の業務を終えて事務部の面々に挨拶をしながらドアを開けた私は、突然横から聞こえた声に思わず悲鳴をあげそうになった。

見るとそこには、少しだけ呆れたような表情をした三木くんが壁にもたれて腕組みをしていて。



「えっ、あ、三木くん……お疲れ、さま」

「……森下さん、メール見ました?」

「へ、め、メール?」



言われてから、慌ててバッグの中をまさぐる。

昼休みから1度も見ていなかったスマホを確認してみると、新着メールが2件。

1件はメルマガで、もう1件の差出人は、今目の前にいる三木くんだ。


ちらりと彼を上目でうかがってから、そのメールを開く。

件名に、【お疲れさまです】。

絵文字ひとつない本文には、【今日何時頃に仕事終わりそうですか?】。



「え、えっと……今、終わりました」

「……見ればわかります」



とりあえずメールの質問に対する答えを伝えてみると、彼は小さく嘆息した。

背中を預けていた壁から身体を起こし、私を見下ろす。



「立ち話はこのくらいにして、さっさと着替えてきてください」

「え?」

「家まで送ります。森下さんの予定がなければ、ですけど」

「へっ」



たった今言われたことがにわかには信じられなくて、思わずぽかんと口を開けてしまった。

……今日はこの後、予定なんてない。

だけど、え? 三木くん今、送ってくれるって、言った?
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