苦恋症候群
……『嫌いだ』なんて言って、遠ざけようとしたのは。

これ以上彼女と関わって、そしてのめり込んでしまいそうになるのが、こわかったから。


……『なんでそんなことを言うんだ』と、告白を一蹴したのは。

彼女に好意を向けられてうれしいと思ってしまった自分が、許せなかったから。


一房すくった彼女の髪は細くて艶やかで、さらりと俺の手の中から落ちる。

それすらも、いとおしい。



『仕事したまえよ、審査部の新人くん』


『しあわせになりたいって、思うのはさ。生きてる人間はみんな、自然と心の中に芽生える感情だと思うもん』


『……ありがとう、三木くん』



──……きっと、本当は。

先にすきになったのは、俺の方だった。
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