苦恋症候群
そうして真柴課長と顔を合わせることができたのは、次の日の昼休みのこと。



「あ、課長お疲れさまですーっ」



ちょうど私が自販機で飲み物を買って顔を上げたとき、到着したエレベーターの中から真柴課長がひとりで現れた。

彼は一瞬驚いたような表情をしたけれど、すぐにその顔に小さな笑みを浮かべ、こちらへと近づいてくる。



「森下。ご苦労さま」

「課長も自販機ですか?」

「ああ、コーヒーが飲みたくなって。そういえば昨日、書類届けてくれたんだってな。ありがとう」

「あ、いえいえー」



話しながら自販機の前に立った真柴課長が、ちらりと私の手元に目を向ける。



「森下は、もう買ったのか」

「あ、はい。ピーチティーを」

「なんだ、もう少し俺が早く来てたら、おごってやったのに」



なんでもないみたいにそう言いながら、彼は自販機に硬貨を入れていく。


……へへ。やっぱりやさしいなあ、真柴課長。

思わずにやけそうになってしまう口元を、飲み物を持つ手でさりげなく隠す。私はもう片方の手をひらひらと振った。
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