桜唄
季節は春。
まだ冬服の時期だ。
雨水が体温を奪い、体が冷える。
体を拭こうにも、さっき教科書や鞄をふくのにハンカチを使ってしまったから、もう拭くものがなかった。
冷たくなった手に息をふきかける。
どうしよう。
風邪ひいちゃう。
そう思った時だった。
『…風邪、ひいちゃうから』
えっ。
声がしたほうを振り向く。
タオルを差し出す一人の少年。
この人。知ってる。
奥原律くんだ。
陸上部の…たしか、伊崎くんの友達の。