桜唄


季節は春。

まだ冬服の時期だ。

雨水が体温を奪い、体が冷える。

体を拭こうにも、さっき教科書や鞄をふくのにハンカチを使ってしまったから、もう拭くものがなかった。


冷たくなった手に息をふきかける。


どうしよう。

風邪ひいちゃう。


そう思った時だった。



『…風邪、ひいちゃうから』



えっ。


声がしたほうを振り向く。


タオルを差し出す一人の少年。


この人。知ってる。

奥原律くんだ。

陸上部の…たしか、伊崎くんの友達の。






< 97 / 130 >

この作品をシェア

pagetop