まだあなたが好きみたい



思わず視線だけでなく、顔の向きまで吊られて動いてしまった。




眼鏡が東に耳打ちし、それに彼も何ごとかを言い返したところで彼の視線がはたと菜々子を捉えた。



一瞬びっくりしたけれど、かろうじて菜々子はいつもそうするように微笑んで、滑り込み友好の意を示した。




東が笑った。




次の瞬間、菜々子はいきなり手のひらを返したように畏まった。



再会なんて別になんでもないことみたいに元の自分に戻って、あたかもシートの一部と化す。




背筋からお尻にかけてむずむずしたものが駆け抜けた。





なんだか、すごく、自分が恥ずかしかった。


厳密には、東を見たときとっさに出た自分の行動が。



心を許せる知り合いの登場に気持ちが弛緩して、よりどころを求める心の弱さが表に出た。





菜々子はつとめて平静を装い、二人の行動にできるだけ意識を持っていかれないよう気を張った。





やがて、奥へと進むに連れ、彼ら自ら菜々子の視界に入るところまでやってきた。




東の視線を感じたけれど強いて反応はしなかった。



彼を待っていたみたいに取られるのは彼女の望むところではなかったから。






果たして彼らは席に座る代わりに、ドアの近くに見つけたわりあい広めのスペースで、壁に体を預けることで落ち着いたらしい。




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