まだあなたが好きみたい


「好きだ」


はじめてはっきり言葉にした。


それだけなら別にたいしたことでもないはずなのに、不覚にも匡は後悔の念に駆られていた。


俺の裏切りが別れた一因でもあるのに元恋人にこんなことを言ってという背徳心がないではないが、ほんとうに匡をおののかせたのは実はそんな殊勝なことではなかった。



吉田が好きだ。



ただそれだけの、素朴でありながらぎゅっと思いのつまった言葉。


本来はすごく温かいはずのその言葉が、しかし言った途端、瞬く間に彼の体温を奪っていった。


できるものなら今言った記憶を消し去りたいとさえ願った。



だって、俺たちに、付き合うというゴールはない。


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