まだあなたが好きみたい


「大方、寄越せって脅したんでしょ? それか監督の指示か」



彼は鼻で嗤った。



「はっ。バカなこと抜かしてんじゃねぇよ。脅し? まさか。あいつらが俺を頼ってボールを投げてくるんだ」



どうだか、と言うように、菜々子は目を眇めて男を見た。



「でもそれが通用するのも今の高校選んだおかげだよね」



男の眉間に不穏なしわが寄る。



「あ?」


「だってそうでしょ? 持ち上げるだけ持ち上げられていい気になって強豪校に上がった途端その他大勢の中に埋もれちゃったら、あなたの性格上、立ち直れないものね」


「なんだと」


「せいぜい期待してくれる学校で良かったわね」



菜々子は三度止めた足を動かして―――動かそうとして、むんずと肩を掴まれた。



「お前、俺をバカにしてるだろ」


「いいえ」


「いいや。その顔がバカにしてる」


「そういうのを人は被害妄想と呼ぶのです」


「言っとくが俺は一軍なんだからな。今日は部のポリシーで二軍のアイツらん中に俺が丸々投入されたけど、それはつまりそれだけ俺がチームから信頼されてるってことだ。ほんとは俺なしでも勝てたけど、まあそのほうが相手に失礼がないし、あくまで安全に勝つためには突出したやつがひとりいた方が確実だからな。それに、他の学校のやつらにプレッシャーを与えるって意味では初戦から歴然とした力を見せつけるのが一番手っ取り早いんだ」


「そのためには自分が必要で、作戦は見事に成功した―――そうでしょ?」



一番言いたい科白をそっくり持っていかれたうえ、拍子抜けなくらいあっさり持論を肯定されて、男の顔には不満と釈然としない感が複雑に滲む。



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