まだあなたが好きみたい

(バスルームか)


匡は廊下を戻った。

ドアに耳を寄せると、今度は女のくぐもった声がかすかに聞こえた。


「睦美!」


蹴り破るかという勢いでドアを開けた匡は、そこに見た衝撃の光景に思わず立ちすくんだ。

洗面台の前に、その人は猿ぐつわをつけられて、拘束された手首でなすすべなくそこに立っていた。

匡を振り返った涙と鼻水でぐしょぐしょの顔は睦美のそれにちがいないが、変わり果てた髪型は本人であることを疑わせるには十分なほど無残に刈り上げられていた。

便座の蓋に土足で上がり、あたかも自身の作品でも見下ろすかのように無造作に掴んだ睦美の頭を左右に揺らしてためつすがめつしていた例の眼鏡は、思いがけない乱入者にうろたえるどころかただただ億劫そうに一瞥をくれ、


「なんだ、おまえか」


と冷ややかに言った。


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