HとSの本 ~彼と彼女の話~
「あ……サンドウィッチ、どうしよう」

 返している時間はないし、何よりいまさら会いに戻れない。
 途方に暮れそうだったけれど、これが食べ物で自分が空腹という事から、答えなんて一つしかなかった。


 ――ごめんなさい。


 名前も知らない彼に謝った。

 手渡しで受け取ったけれど、その光景を思い出すと恥ずかしくて後ろめたい。
 きちんとお礼を言っていないのだから。

 パク、と一口いただいた。

 不思議な触感で、やけにボリュームがある。

 ふと食べ口から中身を覗いてみれば、なるほどこれ一つでお腹いっぱいになりそうなわけだ。

「具がから揚げなんて、初めてだよ……」


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