桜の木の下で-約束編ー


還霊【かえりたま】の送【おくり】。


鬼狩鬼としての通り名でなく、
ボクの真の役職を告げて、
祈るように、願うように依子の意識寄り添って
解放の言葉を唱えていく。


依子が人の世の世界に、
迷い子にならぬように、
YUKIとしての歌声を歌いながら。


今のボクには、
依子を神木までしか送り届けることは出来ない。

だけどあの場所には、
龍神の選びし御子が集っているから。


力を振るいながら、
約定を違え続けるボクの身に
押し寄せる強い呪詛。



より深く侵食してくる
その痛みに自らの爪を食い込ませながら
意識を繋ぎとめていく。



何とか依子が人の世に辿り着いたことを
感じ取ると、そのまま崩れるようにボクは座り込む。



呼吸を整えながら、
鬼狩の剣を杖がわり体を支えて
起き上がると、まっすぐに紅葉を見据える。




「依子さんは返したよ。
 君の手が届かない龍神の御元【みもと】へ。

 己が復讐の為に、人の純粋な心を悪用した君を
 ボクは許すことなんて出来ないよ。

 依子さんの次は、咲もボクに返して貰う」



覚悟を決めて剣の持ち方を変えて、
再度、向き直る。




対峙する咲の切っ先も、何時でもボクを貫けるように
心臓周辺を捕えているように思えた。







『コロシテ……』








向き直るボクに再び、
送り込んできた咲の意識。








……咲……。







ボクに向かって突くように走ってきた
咲の体を交わして、振り上げた鬼狩の剣。







……サヨナラ、咲……。





その思いを残したまま、振り上げた剣の向きを返し、
咲の剣を払い落すとボクの鬼狩を咲の体内へと吸い込ませていった。





……咲……。






それと同時にボクの意識が闇の中へと
墜ちていくのを感じていた。


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