桜の木の下で-約束編ー

16.紅葉散る -咲-




気が付いた時、珠鬼の掌から流れる
暖かな温もりを感じた。



「お目覚めですか?姫様」



そう紡いだ珠鬼の顔色は悪く、
今にも倒れそうなほどに思いつめていた。



「アナタ、一人なのね」



小さく紡ぎだした言葉。


部屋の中を見渡しても、
そこに和鬼は居なかった。




「和鬼は?
 和鬼が居たような気がしたの」


「えぇ。
 和鬼は姫様の隣の部屋で休んでいます。

 姫様はご存じだったのでしょう?
 和鬼が桜鬼神であるという事を」


珠鬼の口から紡がれた思わぬ言葉に
私はただ頷いた。





和鬼……私は、
また貴方を苦しめたのね。




一度目は前世の記憶の中で。




国主としての務めを放棄した私が、
国を助けるためなのだと言い聞かせて
逃げ出したあの日。



貴方が桜鬼神だとは知らずに、
貴方に私を殺めるようにと仕向けた。


愛する人を
その手にかけさせると言う大罪。




そんな咲鬼の事を許せなかったはずなのに、
私も同じことを貴方にしてる。


貴方を苦しめると知っていて、
私自身が一番許したくないのに、
心とは裏腹に
私だけが解放されるために要求した。




二つ目の罪は……あの日。



貴方の苦しみを知ることなく、
安易に『許す』と
自己満足の為に言い切った。



咲鬼から貰ってたあの首飾りを
鬼狩の剣で切り落としたからといって
貴方の心が救われるはずもない。




そんなことすら気がつけぬほどに、
私は自分の満足を満たすことでいっぱいだった。


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