桜の木の下で-約束編ー






和鬼に逢いたい。



明日なんて、
言ってられない。





本当に和鬼かどうか確かめたい。




高鳴る鼓動を抑えきれずに
私は服を着替えて部屋を飛び出した。


玄関を出て足早に
山の頂上を目指す。



途中、走りづらくなったサンダルを
その場で脱いで瞬時に拾いあげると
はだしのままで駆け上がる。



呼吸(いき)が弾む。



さすがの私も心臓が悲鳴を
あげそうになる。




それでも走り続けたかった。



部屋を駆け出した足は
止まる術を知らないかのように
山の頂上まで走り続けた。


弾ませながら
辿り着いた神木。



シーンと静まりかえった
闇の中、春に向けて
その木は静かに力を蓄えていた。



満開の桜は今はない。





桜の幹に静かに手を触れる。





『逢いたい
 逢いたい
 逢いたい……』




その場から動くことも出来ず、
私は桜の木に持たれるように座り込んだ。


大きく別れた二つの枝。


その枝に腰かけて寂しそうに
地上(まち)を見つめていた……鬼。







……貴方に逢いたい……。






こんな気持ちは……
   ……初めてなの……




貴方に……
 もう一度逢いたい……。
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