桜の木の下で-約束編ー






帰路に就く私の隣、
ゆっくりと停車する長い車。




ウィンドウがゆっくりと下がると
そこから姿を見せたのは、一花先輩。




「ごきげんよう。
 咲、貴方もLIVEに来ていただなんて水臭いわ。
 
 でも私、嬉しい。
 司はつれないんですもの」



おしとやかな口調でそう紡いだ途端、
後部座席のドアを開け放つと、
いつもの調子で興奮気に私に抱きつく。



「うぎゃああ」




なんて大声で絶叫するのもいつものシーン。
だけど慌ててその絶叫した口元を両手で押さえる。




「まぁ、咲。
 大げさすぎよ。

 私、ご挨拶しただけじゃない?

 家、帰るのでしょう?
 お乗りなさいな」




そう言って私を促した車内。



車内にもYUKIの曲が流れていた。



うんざりしている司の姿が
何となく想像できた気がしたけど、
今の私には幸せな空間。


促されるままにお邪魔して、
一花先輩の隣に腰掛けると車はゆっくりと動き出す。


一花先輩は、YUKIの曲を聴きながら
終始ノリノリで。


YUKIのLIVEでの必需品らしい
日本舞踊とかでお馴染みの舞扇をひらひらとさせながら、
車内でもLIVEのノリそのまんま。


ポカーンと呆気にとられながら過ごす同じ車内。




「咲、明日は実力試験ですわね。

 Liveに来てたってことは、
 余裕ですわね」



車内で踊りながら、グサリとキツイ一言。



何も答えられない私に、
一花先輩は心配するように覗き込んだ。



< 65 / 299 >

この作品をシェア

pagetop