桜の木の下で-約束編ー



「きゃー、YUKIが出てきたわ。
 はい、皆様整列して」



代表者の声で、
いつもと変わらぬ時間【リアル】が始める。



ファンたちが作り出す花道を、
咲を抱いて歩いて抜けると、
ボクは事務所に連絡をいれる。


鬼の……言葉で……。



『YUKIは現社長の元では
 活動を続けることは出来ない。

 YUKIとしての活動は、
 咲の存在あってのモノなのだと』



相手の心に刻みつけるように。


そして『ノー』と言わせないように。


咲を苦しめた依子への代償。


今の社長親子を失脚させる話題は豊富だから、
ボクが手を下すまでもなく、ゆっくりと地に墜ちていく。



「和喜」


ボクたちを追いかけて、事務所から駆け出してきたらしい
有香が名を呼ぶ。



「ゆっくりと対面するのは初めてね。

 依子さんの貴方に対する嫌がらせ、
 確認させて貰ったわ。

 ねぇ、YUKIとしての貴方に話があるの。

 実は私、
 クリスタルレコードから引き抜きがかかってるの。
 貴方がよければ……移籍して活動を続けるのはどう?

 咲さんと、貴方の関係は
 トパジオスレコードと、オフィス・クリスタルが全面的に守ることを約束するわ」




そう言った有香の言葉に即答できないまま、
ボクは、咲と二人……
時を見て、闇に紛れながら住処へと帰った。



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