バレンタインの呪文
タイトル未編集

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バレンタイデーの呪文





彼女はその頃、強烈な片思いをしていた。




「絶対にあの人と、両思いのラブラブになりたい!」




悶々とした想いを募らせながら、男性心理の攻略法の研究に励んだ。





男心をつかむおしゃれの仕方から、ちょっとした仕草、話し方、好かれる性格など・・・書店の恋愛ノウハウ系の本や、雑誌はもちろん、Web サイトの情報を片っ端からチェックもした。


そこまでして、完璧にこの想いだけは叶えたかった。



先輩や友達で、見るからに仲の良さそうなラブラブなカップルがいれば、そうなるコツを尋ねてみたりした。



「やっぱ私達って、相性がいいんじゃない?」「お互いに、相手のダメ出ししないことよ!」「マメに連絡しあうことかな?」「拘束しすぎないことかも・・・」「彼の前ではいつもキレイに、可愛くしてれば大丈夫よ!」



どれもわりとありきたりで、なるほど!と納得できる決定的なアドバイスを得られることはなかった。



彼女には、過去に数人、付き合った男性がいた。ほとんど成り行きで気づいたらなんとなくそういう関係になっていたり、相手に告白されたパターンだった。



だから、本当に自分がメチャ好き!な相手と両思いのラブラブになった経験がなかった。



不思議なもので、相手に対しての「好き!」という想いが強くなればなるほど、不安が募る。

もしも告白して、あっけなく振られたらどうしよう?いや、そんなこと絶対に許せない!



他に好きな子がいるとか云われたら、ショックで立ち直れないんじゃないか・・・



そんな弱気なことばかりが、頭のなかに浮かんで夜も眠れないほどになる。


バレンタインデーを控え、街のお菓子屋さんの店頭に、色とりどりのパッケージのチョコレートが積まれ始めた。


そのチョコレートの山を目にして、彼女は決意した。



彼にチョコを渡そう!そしてはっきりと告白しよう。



それから、ほぼ毎日、街のチョコ売り場めぐりが始まった。


選ぶチョコにその人のセンスが出る。バレンタインデー特集の雑誌の記事にそんなことが載っていた。


売り場のチョコはそれぞれに凝っていたり、包装が可愛らしくて、見れば見るほど目移りしてしまう。一旦これ!と選んで家に持ち帰る、次の日には、やっぱり他にもっとわたしらしいセンスのチョコがあるんじゃないか?と気が変わる。


翌日、他のお店で、また別のチョコを買ってしまう・・・



「こんなにチョコ買っちゃって・・・いったい、どのチョコレートを渡せばいいの?」
彼女は、部屋の机の上にいくつも並んだチョコを見ながら、ため息を漏らした。



その時、目の前のチョコの包の上に、小さな天使?が現れた!



「どのチョコでも、チョコにあなたの想いをタップリと込めて渡せば大丈夫よ」
微笑みながら、天使が云った。



「・・・」
彼女はあまりに突然のことに、言葉が出なかった。


「いい、目を閉じて、このチョコの山からひとつ選んで。選んだら、そのチョコを彼に渡す時に、しっかりと彼の目を見ながら、次の呪文を唱えてごらんなさい」


天使が続けた。
「このチョコをもしも食べてしまったら、あなたはわたしのことが大大大大大好きになって離れられなくちゃうの、覚悟して食べてね!もし、わたしよりも、他の女の子のことのほうが好きなら、そのチョコは絶対食べちゃダメだよ。そのチョコをわたしだと思ってじっくり味わって食べて・・・」



この呪文、彼女はもう10年以上も前に、たった一度しか使ったことがない。



なぜ?って・・・未だに、呪文が解けていないから!


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