イケメン王子の花メイド
「……俺は親父を見て育った。
自分に厳しくして、目標に向かって努力を惜しまないように生きてきた。親父も昔はそうだったらしいが、今もそうだ」
棗様はゆっくり小さく話す。
私はそれに静かに耳を傾けた。
「そんな生き方に嫌だと思ったことはないが、どこかで……こんな風に誰かに甘えたいと思っていた」
棗様がまるで小さな子猫のように見えてくる。
胸が苦しくなって、愛しくて、抱き締めたくなる。
「そんな姿を見せられる人が今までいなかったわけだが……、
花が来てくれた」
ドキドキし過ぎて今にも倒れそうだけど、それよりも棗様の言葉一つ一つが心に響いてきて……泣きそうになる。
「花が来る前に務めていたメイドが辞める時、口には出来なかったが正直寂しかった」
ちょうど一人のメイドが辞めた直後に社長は私を拾ってくれた。
茜さんからは妊娠がきっかけで辞められたと聞いたけど。
棗様……そんな風に思ってらしたんですね。
「一つ我が儘を言えるなら……誰にもここを辞めて欲しくない……」
「棗様……」
ただの使用人としてではなく、
〝家族〟として。
棗様はそんな風に思ってくれていたのですね。
なんて幸せなんでしょうか。