イケメン王子の花メイド



「花」


「はい、なんでしょう?」


「……前に、好きな人がいるって言ってたよな?」




ドキッと、

心臓が飛び跳ねた。


タイミング良すぎてびっくりした……。




「は、はい」


「花はまだそいつのこと好きなのか?」




私が広げたジャケットに腕を通しながら、棗様は背中越しにそう話す。



どういう意図で聞いてるのかは分からない。

しかもこんなタイミングで。



……棗様は、私の好きな人が誰なのか気付いてるのかな。

前は気付いてなさそうだったけど、


でも今は


もしかして――




「……はい」


「……そうか」


「……」


「もし俺が〝諦めろ〟って言ったら、花はそいつを諦められるか?」





もし


棗様が私の好きな人に気付いていたならば



棗様はどうするだろう。



……なんてずっと考えてて、告白することも怖がってた。


でも昨日、やっと決心がついて。



諦められないと分かったこの気持ちに区切りをつけるつもりだった。




〝花はそいつを諦められるか?〟




……胸が苦しくて張り裂けそう。

でも、私の決心は揺るがない。


諦めようとして、簡単に諦められるものじゃなかったから。


棗様の命令でも、これだけはどうか……。



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