あかつきの少女

苦くて甘いだけ

「ところで棗、それでどうなの」



マンション入り口。



または信号の少し手前。


中学生三人は、帰ることを惜しみ、そこで立ったまま話し込んでいた。



下校中のよくある光景である。



まだ日は明るく、少女たちが帰る様子は見られない。



やや耳障りな笑い声をあげていた美優紀(みゆき)が、ふと棗にふった。


「それでって…?」



「冬樹(ふゆき)君!あれから何かあった!?」



「な、なにもないよ…」


いわゆる“恋バナ”



棗は恥ずかしそうに顔を背け、その長い髪を指に巻き付ける。



ハルは一瞬だけ顔をしかめ、斜め下の方へと視線を移した。



「美優紀こそどうなの?」



棗の切り返し。



「あたしは…そ、卒業式とか…に」



「告白!?」



会話の主導権が棗に戻る。



顔を分かりやすいまでに赤らめたのは美優紀。



ニヤニヤとした笑みを浮かべ美優紀をからかう棗を、ハルは少し冷めた顔をして見つめていた。



少女たちの話題は、またすぐに切り替わる。



「ハル、なんか今日機嫌いいね?」



「そう?私には悪く見えるけど」



美優紀の言葉に、棗は軽くハルの顔を覗きこむ。


「別にいつも通りだよ」


明るく返したつもりのハルだったが、その顔はどこか陰っている。



視線は定まらないし、どこを見ているのかも分からない。



あるいは、どこも見てはいないのかもしれない。


……もしくは、見たくないものでもあるのか。



信号の色が変わる。



潔く別れを切り出したのはハルだった。



「もう帰るの?」



「うん。また明日、学校でね」



笑顔で手を振り合い、横断歩道を駆けた。



そのさきで二人を振り返る。



並んであるく棗と美優紀。



棗だけがハルともう一度目があう。


小さく手を振り、すぐに向き直る。





一人下校する少女の顔はさびしげで。



少女には、どうしてそうなってしまうのか、分からなかった。



さっきまで楽しかったはずなのに、気分が沈む。


家につき、着替え、自分の部屋のベット。



布団にくるまった。



胸に残る痛み。



――辛い



目をつむり、再び開ける頃、初めて気付く。



「…あたし、嫉妬してたんだ。」



たった30秒にも満たないその間を、ハルは繰り返し傷んでいた。



明日になれば、きっと消えているほどの



小さな小さな嫉妬心。






苦くて甘いだけEND



< 3 / 30 >

この作品をシェア

pagetop