あかつきの少女

斜め前の美人

少女は中学校1年生。



休み時間、一人うつむき、肩にぎりぎりつく程度の髪の毛を自分の指に絡ませ、退屈そうにしている。



入学してから1ヵ月たったのにも関わらず、彼女には友達と呼べるほどの人が誰一人としていなかった。



小学6年の頃、人間関係のトラブルが原因で不登校になった彼女は、あえてみんなと違う中学校に行くことで、自分を変えようと試みた。



にもかかわらず、彼女はいまだに友達ができないことに、焦りを覚えていた。



しかし話し掛けようとすれば、あのときの嫌な思い出が思い返され、どうしてもうまく話すことができなかった。



そして相沢鈴実(アイサワスズミ)にも、同じ様に友達がいなかった。



鈴実はいつも無愛想で、感じが悪いと、影で嫌われていた。



美人ということが、さらに鈴実を近寄りがたい人間にさせてしまう。



真っ黒で長い髪も、一部の人は、お化けみたいだとネタにして笑った。



鈴実は自分の服装などにはこだわらないようで、その長い髪は後ろでひとつにくくられていた。



友達がいようがいまいが、彼女には、関係がなかった。



ある日席替えで鈴実の斜め後ろの席になった彼女は、給食中、隣に座った鈴実に思いきって話しかけた。



「あたし高塚小冬(タカツカコフユ)。よろしく、ね」



「…知ってるよ。」



ぎこちない小冬の挨拶に、鈴実は愛想笑いひとつしないで淡泊に返した。


そのやり取りをみていた近くの女子は顔をしかめたが、小冬にはそれが好印象だった。



「ねぇ、さっき何を読んでたの?」



「“春の雪桜”」



自分の読んでいた本のことを訊かれ、気を良くしたのか、鈴実の険しかった表情は和らいだ。



近くからみていた女子からでは、分からないくらいの変化ではあったが。



「どんな話?」



「父を殺した雪と、母に棄てられた桜の話」



小冬はその明るくなさそうな説明に顔を曇らせた。



「泣ける話なの?」



「分かんない。あ…読む?」



「え、いいの?」
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