私たち、政略結婚しています。


……ピピピッ…。

電話がメールの受信を告げる。私はそっと顔を上げると電話を手にした。


『浅尾さん、今晩は。秋本です。
あれから二人の様子はどう?ゆっくり話せなかったから気になってたんだ。

俺の方は、実は彼女と別れてしまいました。
ノロケも聞くから、俺の話も聞いて欲しいな。
明日あたり会えませんか?
企画が通ったお祝いもしてあげたいので』


メールの文字が涙で滲んでいく。

のろける事なんて、何もないわ。
私を抱き締めたあの手は、もう私のものじゃない。

一番近くにあったはずの温もりは、一番遠い場所へと行ってしまったの。

初めから分かっていたのに、どうして今さら泣くのよ。みっともない恋なんて、したくなかった。
だから初めは好きでも近寄らなかったのに。

愛しすぎて、自分を見失う事など、本当はとうに分かっていた。


「克哉……。行かない…で…」

叶うはずもない望み。

側にいて。
またいつもみたいに笑って。
その胸に抱き締めて。

………お願い。


私は再び枕を抱き締めた。


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