私たち、政略結婚しています。


「初めに逃げたお前が悪い」

お義母さんの言葉を無視して彼が言う。そのまま車はすっと立ち去った。
それを横目で見送りながら克哉は歩き出した。

「克哉!恥ずかしいわ」

「恥ずかしくなんかないよ。佐奈は俺の奥さんだって近所に見せつけてやる」


私は仕方なく、落ちないようにそのままギュッと克哉の身体にしがみついた。

「……可愛いな、ホント。いつもこうだと俺もサービスに拍車がかかるのに」

耳元で呟かれ、気が遠くなるような気持ちになる。

目を閉じると雨の音だけが聞こえる。
このままいつまでも克哉にくっついていたい。そしたらずっとこの手が私を温めてくれる。


「おい、甘えん坊。そんな必死にしがみつかなくても落とさないって。…そんなに俺が好きか」

「……うるさいっ」

「あーあ。さっきまで素直だったのに。もう既にひねくれてやがる」


私は何も答えずに目を閉じて彼の胸で揺られていた。



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