私たち、政略結婚しています。



「なんで…」

そう呟いた佐奈の顔を見ることができなかった。
目を逸らしたまま俺は静かに立ち上がると、部屋を出た。

中沢亜由美とは、一年ほど前に付き合っていた。
告白されて言われるがままに恋人関係になったが、どうしても彼女に愛を感じることができなかった。

今になって再び現れるとは。

佐奈を隠したのは、亜由美に知られると面倒なことになると思っての咄嗟の判断からだ。
彼女はプライドが高く、思い込んだら何をするか分からないところがある。佐奈に嫌がらせでもされたらたまらない。

だが…佐奈に誤解されたかも知れない。
亜由美に知られたくなかった訳を。
俺が亜由美を好きだから自分の存在を隠したのだと思ったのだろう。

しかし弁解してどうなる?
そうではないと言って信じるか?

たったそれだけのことで佐奈はここを出て行こうとした。
ふとしたきっかけで崩れてしまうほどにもろい俺たちの関係。

いつまで守り通せるだろうか。

佐奈はどうしたら俺から離れられなくなるのだろうか。
どうしたら…俺を好きになるのだろうか…。


< 34 / 217 >

この作品をシェア

pagetop