叶わぬ恋の叶え方

 咲子はあの人のことをよく知らない。入院中に主治医だった年上の男の人。

 医者としての彼のキャラクターは多少知っているけど、プライベートの彼の顔は知らない。趣味は何なのか、余暇はどんなふうにして過ごしているのか、好きな食べ物は何なのか。

 そういえば好きな食べ物を一つだけ知っている。彼は咲子の会社が作っている苺シュークリームが好きだ。

 本当はもっと彼のことが知りたい。

 でも、他の女の人のことを考えている彼とは付き合いたくない。だからこの前、千載一遇のチャンスを棒に振ってしまった。彼には咲子のことを一番に考えてほしいのだ。二番手なんか嫌だ。

 先生のことがまだ好きだけど、自分の気持ちに素直に従えない。相反する感情に心が揺さぶられる。

 アパートの部屋に一人でいる時の咲子は、テーブルに頬杖をついてぼんやりしている。気を紛らわすのにテレビをつけても、内容が頭に入ってこない。

 いっそのこと、先生が頭の中からきれいさっぱりいなくなってくれれば、どんなスッキリすることだろう。
 

 あの時、先生が咲子のことを誘ったのは単なる気まぐれで、本当はまだ元妻との復縁を望んでいる。彼がまた咲子に来そうな感じはしない。

 今までの人生のパターンで考えると、期待なんかしてもどうせそれは叶わない。期待を裏切られた時の空しさを考えると、期待なんてしない方がいいのだ。

 
 咲子はため息をついた。

 ため息ってついたら良くないって、「運が落ちる」って言う人がいるけど、こんな時はつきたくもなる。
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