チェンジ type R
第五章
隼人くんは黙ったまま私をじっと見ているし、私は思わず声を出して叫んでしまったのが恥ずかしくて何も言えなくなってしまってるし。
他のお客さんはチラチラ目線で私を見ているし。
 ……春先に出てくる怪しいひとではないでのす。
時間にして僅かなものだけど、ついにはいたたまれなくなって俯いてみた。

 確かにメールを送ってみるまで何も気が付かなかった自分も多少は鈍いとは思う。
 でも……もう少し隼人くんも協力的になってくれても良いじゃない。

 そんな恨み言にも似たような感情を抱く。
 そうやって自分の置かれた境遇と不条理な世の中に拗ねていると、突然に、だ――。

(お前の名前……『まりあ』っていうのか?)

 隼人くんがそう聞いてきた。
 あれ?いきなり話題はそこになるの?
 そういえば……名前を呼ばれた覚えはなかったけど、言ってなかったっけ?

 隼人くんにはコクンと頷いてみる。
 いきなり明るく自己紹介をすると、やたら気分の切り替えが早いヤツだ、と思われるのも何だか少し悔しい。
 ここは、正式に自己紹介するまでにワンクッション置いてみようと思う。
 そうかぁ、そういえば……朝からひたすらバタバタしていて名前すら名乗っていなかったような気がする。
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