風の放浪者
「大人しくしておいた方がいいですよ」
「逃げ出さないの?」
「逃げ出してどうするのですか。追いかけっこは、疲れるだけですよ。それに、二度目はありません」
冷静な態度を取るユーリッドにエリックは大股で近付く、彼の隣に腰を下ろす。
そして満面の笑みを浮かべ彼の顔を覗き込むが、その怪しい微笑みにユーリッドは逃げ出すもエリックが後をつけてくる。
「ついてこないでください」
「いいじゃないか。二人っきりなんだし、仲良くしようよ。それに、話し相手がいた方が楽しいよ」
「嫌です。お断りします」
ユーリッドは冷たい言葉を発した後、再びエリックから離れる。
流石に何度も拒絶反応を見せられると、エリックは諦めるしかない。
彼は渋々牢屋の隅に腰を下ろすと、これからのことを考えはじめる。
「逃げ出さないってことは、ずーっと此処にいるの? できることなら、早く脱出したいな」
「結論から言うと、そうなるでしょうね」
彼の発言に、エリックの顔が引き攣りだす。
正直に言って此処は清潔な場所とは呼べず、抵抗力の低い人間なら確実に病気になってしまう。
また、水が濁ったような匂いが鼻につく。
罪人を閉じ込めておく場所ということで、掃除は一切されていない。
そして最低限の権利を保障というものは、受け入れられることはない。
所詮、異端者は異端者で人権は存在しない。
「あいつ等は……」
「僕達を殺すでしょうね」
「そう、簡単に言わない」
「でも、本当のことですよ。僕達は、神話の真実を知っている。逆に彼等はその真実を、何が何でも封じ込めようとしている。そこから考えられる結論は、ひとつしかありません。つまり、口封じ」
脅しに近い発言の数々に、エリックの顔から血の気が引く。
だが、ユーリッドが冗談を言うような人物ではないことは今までの行動で証明済み。
そうなると、覚悟を決めないといけない。
ユーリッドの発言により、エリックは嫌な妄想をしてしまう。
その妄想を振り払うように頭を振り気分転換にならないかと、周囲に何か面白いものが落ちていないか探しはじめる。
すると今まで全くといっていいほど気付かなかったが、彼が腰を下ろしている近くに何かが落ちていた。