風の放浪者
「……皆」
オレンジ色の明かりが、暗闇を明るく照らす。
降り頻る雨の中でもその色彩はハッキリと認識することができ、その存在を強烈に印象付ける。
燃えていた。
全てを消し去るかのように――
絶望に支配され、男は天を仰ぎ絶叫する。
同時に髪から滴り落ちる水滴に混じり、温かいモノが頬を伝った。
一人一人仲間の名前を呼びたかったが、感情の高ぶりにより違う言葉を叫ぶ。
「何故だ、何故なんだ! 何ゆえ、真実を隠そうとする。お前達がそこまでして守りたいモノは、何だ! 地位か名誉か――この世界は、お前達のモノではない。好き勝手に、命を弄ぶな」
罵倒に近い言葉であったが、これこそが男の本音。
この世界で生きているのは、人間だけではない。それを弁えず、彼等は愚かな行為を行う。
それさえ認めず、奴等はその証拠を抹殺した。
皆、狂っている。しかし、自分だけではどうすることもできない。
男は乱れた呼吸を整えると、ふら付く足取りで歩きはじめた。
いつまでもこの場所に留まっていたら、自分の身に危険が及ぶからだ。
騒ぎを聞き付け、多くの者が建物から飛び出し集まってくる。
その者達が集う場所はオレンジ色の光が照らし出し男の仲間の命が消えた場所であったが、何事かという表情を浮かべる人々はこの真相を知らない。
聖職者の手により、真実が握り潰されたということを――
目の前に広がる光景に視線が奪われ、誰も男の存在に気付いていない。
そして闇夜を照らす光は美しいが、その美しさの背景に嘆きが隠されているということは表に出ることはない。
「我等を許したまえ――リゼル様」
男の祈りの言葉は騒々しい雨の音に掻き消されてしまい、誰の耳のも届かず男の存在と共に姿を消す。
これにより聖職者は己の地位が守られたと確信するが、希望の光が消えたわけではない。