追憶乃記憶

 橋の本棚に目を通したとき、見慣れない装丁の背表紙が目に入った。

―「巫女の歴史」

 記憶にない題名だった。
 もう読み尽くしたと思っていたが、読み損ねていたのだろうか。

 歴史書なら、研究に役立つかもしれない。

 そんな期待から、ゆっくりと手を伸ばし、背表紙に指を掛けた。
 するりと手に納まった本は、軽い割に厚い。

 私が今まで学んできた巫女について以外の、裏の歴史なぞが記録されているのではと、少しばかり期待している。
 市販品のような薄い表紙ではないことも、期待の一要因だ。

 紙や表紙の日焼け具合から見て、真新しい本ではないようだ。

 表紙をめくると、細く柔らかい字で文字が書かれている。

―親愛なる貴方へ

 貴方が誰なのか、誰が描いた文字なのかは分からない。
 ただ、とても優しい字だった。
 子を想う母が描いたような、そんな気がする。

 机に向かって歩きながら、ページをめくった。

 「太古から…」
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