小咄
「あのね、わらわ、どうやったらもっと魅力的になれるかな」

 オレンジジュースを受け取り、深成がぽつりと言う。

「今のわらわのお客さんって、真砂だけだもん。真砂、ホストだからもてるし、いろんな女の人知ってるでしょ。真砂がアフターにも誘ってくれないのは、やっぱりわらわに魅力がないから?」

「うん? あの兄さん、そんなつまんなそうなのかい?」

「ううん、そんなことはないんだけど。でも一時間もいないときでも、さっさと帰っちゃうし。普通はそんなときって、アフター頼むじゃん」

「……ま、別料金がかかるのが嫌だっていうわけでもないだろうしねぇ。ホストだけに、あんたの売れ行きを見極めて、売り上げを調整してるんだろうし」

「え?」

「あの兄さん、あんたが常に三位でいられるように、考えてるんだよ」

「え、何で?」

「何でって。兄さんの金払いを見てりゃわかるだろ。あの兄さんなら、あんたをNo.1にするぐらい、容易いもんだと思うよ。それでもあえて、三位で留めるように注文してるのさ」

「何でそんなことに拘るの? そりゃ売り上げが全然悪かったら、いい加減暇を出されちゃうかもだけど」

 全然わかってない深成に、狐姫は、ふふ、と笑う。
 そして、水割りのグラスを軽く振った。

「下手にNo.1になっちまったら、他の客の手が付くだろ。店のNo.1キャストを相手にするってだけで、男はステータスを感じるもんだ。昔っからその辺りは変わんないねぇ」

「他のお客が付いたら、良いことじゃないの?」

「お前にとっては良いかもね。でも、兄さんは嫌なんだろうさ。お前さんを独占するには、そうそう目立たないほうがいい。でも、あまりに売れないキャストでも可哀想。三位ぐらいが、一番いい位置なのさ。ま、あんたを想ってのことだよね」

 普通のあんたを三位に押し上げるだけでも大したもんだけど、と言い、狐姫は目を細める。

「じゃさ、そこまでしてくれる真砂に、お礼がしたいんだけど」

 ずい、と深成は狐姫に身体を近づけた。

「来週ね、真砂、お誕生日なの。でもきっと、またぎりぎりにしか来れないだろうから、アフターでいっぱいお祝いしてあげたいんだけど。でもそのためには、わらわが真砂に『アフターに誘いたい』って思われないと駄目でしょ。そのためには、もっと色気を出して、真砂を欲情させないと」

 言いつつ、深成は自分の胸元に視線を落とす。
 千代のような、はちきれそうな胸もないし、そそるように揺れるお尻もない。
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