小咄

とある嵐の夜の物語

【キャスト】
mira商社 課長:真砂 派遣事務員:深成
※『とある若者たちの合コン事情』の続編。真砂・深成メイン※
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「……雨、全然止まない。風も酷いし」

 助手席で、ふるふると震える深成が呟く。
 フロントガラスに叩きつける滝のような雨は、ワイパーを最強にしても、前が見えないほどだ。

「台風なんか来てたかな。こんな強風じゃ、どっちにしろお前なんざ、吹っ飛ばされるだろうな」

 特に焦ることもなく、ハンドルを切りながら真砂が言う。

「どういう意味さっ」

「送ってやらにゃ、雷が鳴ってなくても帰れなかっただろう、ということだ」

「かっ雷が鳴ってたって、帰れるもんっ」

「嘘こけ。そんながくがくで、この雨風の中まともに歩けると思うのか。外に出たら、一瞬で空の彼方に飛ばされるさ」

「どんだけわらわが軽いと思ってんのさっ」

 きぃきぃと噛み付く深成に、真砂が、はは、と笑う。
 ちょっと、深成は目を見開いた。
 真砂の笑顔を、初めて見たような気がする。

 一瞬嵐を忘れた深成だったが、いきなり目を射るような光が走った。
 ほぼ同時に、車の中でも聞こえるほどの雷鳴。

「ひいぃぃっ!!」

 シートベルトをしているのに、深成は車の天井に頭をぶつけるほど、助手席で飛び上がった。

「もぅ、怖いよぅ〜〜っ」

 我慢の限界に達したのか、深成はべそをかきながら、シートの上で丸まった。

「……おい……」

 まさかここまでとは思わず、真砂が声をかけるが、深成は耳を押さえて猫のように丸まっている。
 まじかよ、と小さく呟き、とにかく真砂は、自分のマンションへと急いだ。
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