小咄

とあるmira商社での忘年会

【キャスト】
課長:真砂・清五郎 社員:捨吉・あき・千代
派遣事務員:深成
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆

 十二月二十六日。
 仕事納めの日である。

「課長ーーーっ!」

 フロアのドアが開くと共に響いた叫び声に、仕事に追われていた皆が顔を上げる。

「課長っ! お久しぶりでございますぅ~……て、あら?」

 フロアの中程まで走り込んできた千代の足が、ぴたりと止まる。
 目指す上座に、真砂の姿がない。

「あっ! 千代ぉ!! お帰り~~っ! わらわ、寂しかったぁ~~~っ!!」

 真砂の机のすぐ前の席から、深成が飛んでくる。
 そして、がばっと千代に抱き付いた。

「あ、ああ。よしよし」

 何だ、あんたか、と思わないでもなかったが、素直に己の帰還を喜んでくれるのは嬉しい。
 千代は胸にへばりつく深成の頭を、わしわしと撫でた。

「あんたも大変だったろう? 課長にご迷惑かけなかったかい?」

「大変だったぁ。課長がいろいろフォローしてくれたけど、やっぱりわらわ、千代みたいにばりばり仕事出来ないもん。死んじゃいそうだったんだよぉ。ねね、来年から、帰ってきてくれるんでしょ?」

「うん、そのはずだから、安心おしよ。……ところで」

 無邪気に千代に懐く深成は可愛いものだ。
 邪険にすることなく相手をし、だが千代は、本来の目的である上座に目をやった。

「真砂課長は?」

「あ、今日はほら、仕事納めだから、社長が何か朝から張り切っててね。社長室で納会してるみたい」

「朝から?」

「ん~……。課長はお昼から呼び出されたみたいだけど、そろそろ営業部の納会だし、もう帰ってくると思うよ」

 まず一番に会いたかった真砂がいないとなると、一気に千代のテンションは落ちる。
 がっくりと深成の隣に座り込んだ。

 そのとき。

「さぁ皆、お待たせぇ。ビールもワインも日本酒もあるでぇ。マサグループの社長さんから差し入れももろたし、納会始めよやぁ」

 ばーん、とフロアの扉が開き、大きなワゴンを従えて、ミラ子社長が入ってきた。
 クリスマスのように華やかなドレスに、もけもけのついたジュリアナ扇子(歳がばれる)。

 そのミラ子社長の少し後ろには、この上なく渋い顔の真砂が、何故か袴姿で立っている。

「おや、お千代さん。わざわざご挨拶かえ?」

 ちらりとミラ子社長が、腰を浮かせた千代を見て声をかけた。

「あ、ええ。仕事納めですし、わたくし、来年からは戻りますので。課長にもちゃんとご挨拶をしておかないと」

 今すぐ真砂に駆け寄りたいところだが、さすがに社長を無視して先に真砂に飛んでいくわけにもいかない。
 千代は、立ち上がるとミラ子社長に向かって、ぺこりと頭を下げた。

「そやな。ご苦労さんやったね。大変やったやろうけど、楽しかったやろ?」

「そうですねぇ。まぁ、普段出来ない体験を、いろいろさせていただきましたわ」

 そういえば、研修に行かされるときに、確か真砂は『新しいことを吸収してこい』と言っていた。
 が、あそこに新しいものなどあっただろうか。
 やたらと古いものに詳しくなっただけのような。
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