小咄

とある自衛隊幹部候補生学校の訓練風景

【キャスト】
教官:真砂 候補生:深成・千代・あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆

 うららかな九州の、とある山中。
 決してなだらかではない山道を、迷彩服の若者が走っている。
 六甲山縦走の比ではない、本気走りだ。

「おらぁ! そこ! 歩くんじゃねぇ!!」

 いきなり後方から罵声が飛んだ。
 へろへろと今にもへたり込みそうなあきが、泣きそうになりながら必死で足を動かす。
 が。

「あっ」

 足がもつれ、あきはその場に転がる。
 一度立ち止まってしまうと、最早動けない。
 あきはそのまま、項垂れてぜぃぜぃと息をついた。

「あきちゃん、大丈夫~?」

 てててて、と深成が駆け寄ってくる。
 あきは顔を上げる元気もないようで、項垂れたまま、ふるふると首を振った。

「あ、あたしもう駄目……。深成ちゃん、先に行ってて」

「駄目っても、リタイアなんて教官が許してくれるわけないじゃん」

 励ます深成だったが、そこに、ふっと影が落ちる。
 さらに、ざり、という砂を踏む音と共に、低い声が落ちてきた。

「誰が休んでいいと言った」

 鬼教官・真砂が、腕組みして立っている。
 迷彩服というのは、周りの景色に溶け込むものだろうに、真砂が着るとその威力はなくなるようだ。

 似合いすぎて人目を惹く。
 コスプレ効果というものか。

 特に千代は、真砂がどこにいても瞬時に見つける。
 現に今も……。

「教官~。置いていくなんて、酷いですわぁ~。まだ道もよくわからないのに~」

 後ろから、両手を広げて駆けてくる。
 あきはへろへろなのに、真砂を前にした千代の足取りは軽い。
 わざと小さめの迷彩服を選んだ千代は、身体の線がくっきりと出て、かなりエロい。
 しかも。

「ああっ」

 嬉しそうな声を上げ、千代は躓いたふりをしつつ、真砂に飛び込んで行く。
 真砂はちらりと千代を見、ひらりと身体を捻った。

 抱きつこうとしていた標的がいきなりいなくなり、千代は慌ててたたらを踏む。
 真砂は身体を捻ったまま一回転し、そのまま遠心力の乗った足で、容赦なく千代の尻を蹴り上げた。

「そんだけ元気なんだったら、無駄口叩いてねぇで、さっさと行きやがれ!」

「きゃあんっ」

 尻を蹴り上げられながらも、千代はどこか嬉しそうに声を上げる。

「おら、さっさと立たねぇか。そんなことじゃ、卒業タイムに遠く及ばんぞ」

 先程千代を蹴り上げた足先で、真砂はあきの尻を小突いた。
 その感触に、密かに頬を赤らめつつ、あきはのろのろと起き上がった。

 どうやら真砂に尻を触られたことで、体力が戻ったらしい。
 例えそれが、ほとんど蹴られているのであっても。

「うもぅ~。ほんっとに鬼なんだから。女の子に向かって足蹴りって、世間じゃあり得ないよっ」

 深成が口を尖らせる。
 だが真砂は思いきり馬鹿にしたように、ふんと鼻を鳴らした。

「人並みに扱われたきゃ、普通の会社に入るんだな。自衛隊に入った以上、女も男もあるか」

 言いつつ、おらおらと三人を追い立てる。
 深成が思いっきり不満顔で、山頂を眺めた。

「あ~あ。せめててっぺんに、ケーキのご褒美があるとか、美味しいお団子のお茶屋があるとかだったら頑張るのに~」

「褒美があれば、頑張るわけか」

「そりゃ、折角九州まで来てるのに、全然美味しいもの食べに行けてないもの」

 候補生には、大した休暇もない。
 まだ町散策にも行けてないのだ。
 真砂は少し考えた。

「じゃあ次の休みには、太宰府に連れて行ってやろう」

「神社?」

「学問の神だ。お前の阿呆さを、ちょっとは緩和してもらえ」

 むきっと深成が牙を剥く。
 それをさらっと無視し、真砂は腕時計に視線を落とした。

「太宰府には、美味い餅があるんだ。卒業タイムを切れたら、おごってやる」

「ほんとっ?」

 ぱ、と深成の顔が輝いた。
 だが真砂は、無表情で時計を指す。

「今、二十五分経過しているがな」

 がくり、とあきと千代は項垂れた。
 まだ行程の半分だ。
 卒業タイムは三十五分三十秒。
 あと十分少々しかない。

 別に二人は餅などどうでもいいのだが、『真砂とどこかに出かける』ことに意味があるのだ。
 だが深成は一人、軽く屈伸すると、だっと駆け出した。

「美味しいお餅のためなら、不可能も可能にするんだから~」

 叫びながら、横の木立に突っ込んでいく。
 真砂が慌てて後を追った。

「こら! どこに行くんだ!」

「うねうねした道を行くより、真っ直ぐ上がったほうが、絶対早いじゃん~」

「阿呆! ったく、悪知恵だけは働く奴だな! その腐った根性、たたき直してやる!」

「悪知恵じゃないもん! 合理的と言ってよね! 近道したら駄目なんて言わなかったじゃ~ん」

 きゃんきゃんと叫びながらも、深成はひょいひょいと枝から枝を飛んで移動する。

「猿か! ……おい! 貴様らも、ぼぅっとしてないで、とっとと進め! さぼるんじゃねぇ!」

 舌打ちしつつ、真砂は背後の二人に吐き捨て、木立の中へと飛び込んでいった。

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 う~む(6 ̄ ̄)ちょっと消化不良かな。
 自衛隊とリクエストいただいたものの、自衛隊のことはよくわかりませんので、ちょっとお勉強したのですよ。
 ……えっと( ̄ー ̄;A)資料が膨大で、何が何やら。
 で、まぁその中でも面白そうな、高良山登山走を使ってみました。といっても高良山に行ったことはありませんので、実際はどんな山か知りませぬ。
 確か宮島の弥山でも似たような訓練があるはずなんだけど、いまいち自信がなかったので。弥山ならわかるんだけど。
 でも学校から山まで走るらしいから、本気走りだろう、と。弥山でも本気走りしてたし。
 六甲山縦走も、決して普通の登山ではありませぬ。あれもかなりのスピードですが、小走り程度なので。

 うむむ、真砂のドSっぷりが出たのは、初めのほうだけでしたな。いつもより激しいですが( ̄∀ ̄)まさに鬼教官。
 ……あ、教官とは言わないんでしょうな。階級があるんだけど、もう細かすぎてさっぱり。
 結構調べ物するわりには、いつも中途半端な左近なのでした。
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