小咄
---そういえば、あきちゃんとか、帰れたのかな---

 ベッドにごろごろと寝そべって、深成はぼんやりと考えた。
 捨吉たちが帰ったのは、深成たちより前だが、そう時間が開いていたわけでもない。

 電車も二、三本前ぐらいだろう。
 ここより先までまだ行っていたか、微妙な時間だ。

---あの二人は、帰れなかったらどうするだろう。タクシーかなぁ。でもここからだったら、結構かかるよね……---

 はたしてあの二人の関係はどうだったろうか、とかつらつら考えていると、真砂が出てきた。
 どきん、と深成の胸が跳ね上がる。
 真砂は腰にタオルを巻いただけだ。

「着替えを忘れた。その辺に何かないか?」

「え、えっと……。あ、あった」

 わたわたとベッドサイドを見回した深成が差し出したバスローブを受け取り、背を向けてそれを羽織る。

「あ、じゃあわらわも入ってこようっと」

 ささっと深成が浴室に向かう。

「バスローブ忘れるなよ」

「あ。着替えって、それしかないの?」

「まぁそうだろうな。別に嫌だったらタオルだけでもいいぞ」

 しれっと言う真砂に、い~っと顔を突き出し、深成はバスローブを持って浴室に入った。

---わお。お風呂も大きいね~---

 湯船に浸かり、深成はきょろきょろと浴室内を見回した。
 こういうところのお風呂は初めてだ。

 以前に真砂とこういうホテルに泊まったことはあるが、当時はまだまだお互い上司と部下だった。
 酔い潰れた深成を真砂が介抱しただけだったので、何事もなかったのだ。

---そういや、もうすっかりすっぴんも慣れちゃったな。まぁいっつもほとんど化粧してないも同然だから、課長も突っ込んだりしないし---

 ぶつぶつと思いつつ、深成は物珍しいお風呂を堪能した。
 風呂から上がると、深成はふらふらとベッドに近付き、ぽてんと倒れ込む。

「ふぃ。何か面白くて長風呂しちゃった。眠いしのぼせちゃったよ」

「ま、もう二時だしな」

 見ていたTVを消し、真砂が言う。
 ちらりと深成は、枕元の棚にある、小さな小物入れを見た。
 手の平サイズの薄いパッケージが二つほど、ちょこんと用意されている。

---これって……アレだよね。そういうことするのに必要なものは、全部揃ってるんだな。てことは、課長がその気になったら、何ら問題なく出来るってことだよね---

 ちょっと意識し、深成は、初めは少し真砂と離れて布団に潜り込んだ。
 が、元々深成は寂しがり屋だ。
 加えて知らない部屋で一人で寝るのは恐ろしい。

 結局布団の中で、じりじりと真砂に近付いてしまう。

「何を変に離れてるんだよ、珍しい」

 妙な距離を保ったままの深成に、真砂が不思議そうに言う。
 そして、身体を反転させると、深成の上に覆い被さった。
 どきんと深成の鼓動が跳ね上がる。

 真砂が顔を近付ける。
 どきどきしたまま、深成は真砂のキスを受け入れた。
 一旦唇を離し、再び重ねられた唇は、ゆっくりと頬から耳元、首筋へと移動する。

「……っっ」

 不意に真砂が、少し身体を起こした。
 ぎゅっと目を瞑って、ふるふると震えている深成を見下ろす。
 しばし時が流れ、そろ、と深成が目を開いてみると、真砂が軽く、その瞼にキスを落とした。

「いつもみたいに、抵抗しないんだな」

 こういう甘やかな場面では、深成は軽くパニックになって抵抗する。
 もっともそんな激しい抵抗ではないが、慌てて逃れようとするのが常だった。
 が、今は涙目で震えているが、固まったまま大人しい。

「……か、課長にキスされるのは、嫌じゃないもん」

「思いっきり怯えてるじゃないか」

「だって……ここがどういうところかぐらい、わらわだってわかってるもん」

「わかった上での、その怯えか」

「怖いんだもん」

 真砂は、ふ、と息をついた。
 うるうると潤んだ目で言う深成を見ていると、滅茶苦茶にしてしまいたい欲望も湧き上がるが、やはり可哀想になってしまう。

「……しょうがないな」

 ため息と共に言い、真砂は、どさ、と深成の横に身体を投げ出した。

「いつになったら出来るのかねぇ」

 呟く真砂に、深成は慌てたように、がばっと抱き付いた。

「ご、ごめんなさい」

 機嫌を損ねたのかと、不安そうな顔で見上げる深成を、真砂はちょっと渋い顔で見た。
 そして、くしゃくしゃと深成の頭を撫でると、ぎゅ、と抱き締める。

「馬鹿。無理せんでいい。俺だってどうしても欲しくなったら、無理やりでもやるさ」

 ひく、と顔を引き攣らせる深成ににやりと笑い、もう一度、真砂はぎゅうっと深成を抱き締めた。

・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
 ラブホ二回目( ̄▽ ̄)
 前よりはそういう雰囲気になりやすい状況ではありますが、やっぱり出来ませんでした。

 つかね、これ、書いてるのは前の六郎の研修体験の後だけど、時系列的には研修体験中なんですよ。
 なので、あっちでまだやってないのに、こっちでやるわけにもいかなくて。
 またまた真砂はお預けを食う羽目になってしまいましたとさ。

 でもうっかり次ぐらいで、もうやるかもね。
 前にちゃんと彼女になったしね(実際その言葉を貰ったのは、この鍋パーティーよりも後なんだけど)。

 まぁそれも、ネタが上がらない限りないわけで。
 その点でも真砂はお預け状態が続くかも、と( ̄▽ ̄)

2015/08/09 藤堂 左近
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