小咄
「いかんいかん! 貴様ぁっ!! 深成ちゃんの優しさに付け込んで、何をやらす気だぁっ!!」

 だだだっと階段を上りかけていた二人に向かって疾走する。
 振り向いた深成の顔が、恐怖で引き攣った。

「にゃーーっ!! おばけーーーっっ!!」

「しーっ! 大丈夫だよ」

 慌てて真砂が、深成を自分の胸に押し付けるように、強く抱き締める。
 とりあえず、あまり騒いだらまずかろう。

 しかし、深成が泣き叫ぶのも無理はない。
 何せ男湯から飛び出してきたのは、鼻から下が血塗れで必死の形相のモノなのだ。

 しかもそろそろ丑三つ時である。
 薄暗い旅館で、こんな恐ろしいことはない。
 真砂の腕の中で、深成はがくがくと震えている。

「俺がいるだろ。何があっても守ってやる」

 よしよし、と優しく頭を撫でてやると、深成は、真砂の胸に顔を付けたまま、こくりと頷いた。
 その様子に、六郎の頭が急激に冷める。

 真砂の本心が初めて見えた。
 深成も、真砂に全てを委ねている。

---こ、このドSで鬼畜な助平野郎が、こんなに優しい顔を見せるのか。深成ちゃんも、奴に全幅の信頼を置いているんだな。な、何と言うことだ……---

 しばらく震える深成を抱き締めていた真砂は、ちらりと六郎に目をやると、不意に深成の前髪を掻き上げて、額にキスをした。
 その優しいキスに、六郎の昂っていた気が、ふぅっと遠くなる。

「いい加減諦めろ。いくらお前がこいつを想っても、こいつがお前に靡くことはない。俺がここまでするのはこいつだけだし、こいつがここまでするのも俺だけだ」

 今までのようにからかうでもなく、きっぱりと言う。
 そしていまだ震える深成を抱き上げると、呆然と立ち竦む六郎に背を向けた。

「そんなに怯えるな。部屋に戻ったら、あんなもの忘れさせてやるさ」

 にやりと言う真砂に、深成が腕の中で、再びこくりと頷いた。

---だっ駄目だーーーっ!! どういう方法で忘れさそうとしているのか、わかったものではないぞ!!---

 しつこい六郎の叫びは、最早体力的に口から発せられることはなく、またも真砂の勝ち誇った笑みが見えたのを最後に、六郎はばったりと仰向けに倒れ、気を失うのであった。

・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
 六郎暴走、バカップル温泉旅行編。

 ここのところ糖分不足だったもので、もうこれでもかとらぶらぶっぷり発揮させてしまいました。
 やっぱり楽しいわ、この二人。
 なかなかリクエストも難しくなってきたかもですが、出来れば続けていきたいですなぁ。

 今回は二人っきりでひたすららぶらぶさせるって手もあったんですけどね。
 六郎を投入して欲しいとのことだったので、強烈なお邪魔虫投入。

 でもやっぱり結果的に、六郎がしゃしゃり出て来た後には、らぶらぶ度が大幅アップ。
 きっとこの後も、お部屋でらぶらぶしてますよ。
 何だかんだで、六郎は二人の接着剤なのです。超不本意でしょうけど。

 六郎は、ゆいと一緒に旅行に来てるって設定にしようかと思ったんですけどね。
 そうすると、六郎ががっつり食い込めないし。

 六郎とゆいは、カップル的にはいいんだけど、真砂と深成とゆいは同じ会社ですし、真砂は上司だしね。
 同じ会社の関係ない人にバレるのはよろしくないだろう、と。

 しかし六郎、頑張るなぁ。
 最後で悟った風だったくせに、やっぱり最後の最後では許せなくなってるし。

 今回ちらっとガタイの違いが出て来てますが、真砂はそんなイメージです。
 キャラの中で一番背が高いイメージなのは清五郎。

 何となく、乗ってる車とかも、ちゃんとイメージありますよ。
 その辺の細かい設定を公開するのも面白いかな?
 まぁそれもリクエスト次第ですが( ̄▽ ̄)


2016/12/06 藤堂 左近

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