小咄
 さて、そんなこんなで、何故か用意されていた燕尾服に着替えて奥の部屋に案内された二人を出迎えたのは、ここの会社の社長。

「おお〜、よぅ似合っとる。いやぁ、リクエストしてくれたラテ子に感謝やわぁ」

 大輪の牡丹があしらわれた紫色の着物を粋に着こなし、檜扇のような大きな扇をぶんぶん振りつつ、近う寄れ、と二人を招く。
 静かに座っていれば楚々とした美人なのに、残念要素が勝ってしまう。

「さ、遠慮なくお座りぃや。あ、そやな、両サイドでお願い。こっちに真砂課長。んでこっちに清五郎課長。鉄壁のディフェンスでお願いしますわ」

「ということは、社長がGKですか」

「そや。W杯も近いしやなぁ。あ、でもゴールまでボールが来るようではあかんで。うちんとこに来るまでに、あんたら二人で止めるんや。言うたら本田と遠藤みたいなもんやな」

「全然守る位置が違いますが」

「細かいことはええんや。言いたいことは、わかるやろ。そもそも遠藤ちうたら、うちは相撲のほうのやなぁ……」

「社長、社長」

 延々と続きそうなミラ子社長の話を、横から先程の女性が遮る。

「そろそろ鉄板も温まっております故」

「ああ、そうそう。火加減が命やからな。そや、二人はお初やな。紹介するわ。この子はラテ子。あのスウィーツ会社・マサグループの社長さんの秘書さんや。スイーツちゃうで。ス・ウィーツや。是非とも今日のパーティーに参加して貰おう思て、マサ社長からお借りしたんや」

「是非とも参加させて頂きたくて、ミラ子社長にお願いしたんです。よろしくお願いします」

 ぺこり、と頭を下げるラテ子に、真砂と清五郎も頭を下げた。
 そして視線を、目の前のテーブルにやる。

 パーティー……とか言ったか。
 目の前にあるのは、どでかいたこ焼き器である。

「社長……。パーティーとは?」

 怪訝な表情で言う真砂に、ミラ子社長は不敵に笑うと、しゅるり、と優雅な手付きで襷をかける。
 そしてラテ子が運んできた、これまたどでかいボールにお玉を突っ込むと、慣れた手付きで次々とたこ焼き器の穴にタネを入れていった。

「今日のタコは、本場明石から取り寄せた昼網やでぇ。さっきまで暴れて暴れて大変やったんや。何せ明石のタコは、魚の棚市場の中を逃げ回るさかいなぁ」

「昼網って、昼前に手に入るものなのか」

「今日の昼網とは限らんだろ」

 ぼそぼそと突っ込みを入れる真砂と清五郎を気にもせず、ミラ子社長は正確なタコ捌きで、取りこぼしなく全てのタネにタコを入れる。
 そして仕事人さながら、しゃきんとピックを構えた。
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