【短編】遺り火
手紙
その手紙は、義父の遺品を義母と共に片付けている時に見つけてしまった。


書類に混じっていた、表書きの何もない少し厚みのあるその封筒。


触れた瞬間 、指の先から電流が体中を走り抜けていった。


その瞬間、形容のし難い、不安定な思いにかられて、義母の目には触れないようにと、無意識にうちに座布団の下にその手紙を引き込んでいた。


心臓が早鐘のように打っている。


どうしてそのようなことをしたか自分でも説明のつかない行動であった。


その後も、話しかける義母に相づちを打ちながら作業を続けては、いた。
気持ちは痛みにもにた存在感のある手紙に引き寄せられたままで。



その間にも、義父あての手紙は他にも何通か出てきた。

その大概が礼状で、義母は一つひとつを開いては大きな声で読み上げた。


父がいかに他人に優しい人であったかと思い出しては又涙を拭くというような有様で、片づけは一向にはかどらない。


それでも、ようやく半分近くを片付け終えて、残りは明日することにしようと、母は「ヨイショ」と腰を上げた。


最近、痛めた膝をかばいながら、近くにあった小さなテーブルに全体重をかけながら、母は立ち上がる。

すっくと背の全てをまっすぐに伸ばした瞬間に、さっきまでハラハラと涙を流していた義母は、それまでの涙が嘘のように軽やかな声で私に話しかける。


「納田さんがねぇ、気晴らしにって「お芝居」誘ってくれたのヨ」


義母の声は、もうすでに弾んでいる。

「やっぱり、友達はいいねぇ。あたしの事を心配してくれてるんだよね・・・・」


母は、やはり弾んだ声のままで身支度に余念がない。


サナエは、座布団の下から、さきほどの手紙をさりげなく抜くと、はいているスカートの襞の間にそれ隠しもったまま、鏡に向かう義母の背中に声をかけて、部屋を出ていった。


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