傷ついてもいい
ぬくもり
朝起きると直己は、もう居なかった。

元々トランクひとつで来ていたから、直己にとっては、長い旅行のようだったのかもしれない。

洗面所やキッチンや玄関の所々に置いてあった直己の物は、すべて綺麗になくなっていて、なんだか直己と暮らした日々が幻だったように佳奈は感じた。

リビングの隅に布団が畳んでおいてあった。

いつも敷きっぱなしだったのに、こんな日に限ってちゃんと畳んであるなんて。

佳奈は、余計に寂しくなる。

布団の上にダイブしてみると、やっぱり直己の匂いがした。

「居たんだよね、ここに」

また泣きそうになって、ぐっと堪えた。

しばらくぼんやりして、佳奈は、ノロノロと起き上がり、窓をあけて布団を干した。

「よっこいしょ」

…佳奈さん、また言ってるよ、よっこいしょって…

直己の声が聞こえるような気がした。
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