バスボムに、愛を込めて


そんな羽石の前向きさと根性は、恋愛面においてだけでなく仕事中もよく発揮されている。

始めはただの能天気だと思っていたのに、その裏には本人の頑張りがあって、だから今までも結果が付いてきたのだろうと感心するまでになっていた。

やる気があるのはチームの全員に言えることだが、積極的な姿勢と独特の発想から、バスボムの開発はもはや羽石を中心に回っていると言ってもいい。

一緒に展示会に参加するというのも、その場では嫌な顔をして見せたが、アイツがどんな風に仕事をこなしていくか興味があった。

……そう、その頃から。

“俺は羽石という女に興味がある”と、自分でもはっきりわかるくらいの気持ちが芽生えたのだ。

――そんな矢先に、羽石からのデートの誘い。

そういうことはあまりに久しぶりだったし、今まで付き合ってきた女は俺と一緒に出掛けてもあまり楽しんでいるように見えなかった。

だから、幻滅されるのが怖くて一度は断ろうとした。
その口から、“海”という単語が飛び出すまでは。

……潔癖になる以前は、俺も海が好きだった。

兄貴と一緒に時間を忘れて遊んで、二人そろって汚れた格好を母親に叱られるのが日常茶飯事。

あの頃の仲の良かった兄弟にはもう戻れないだろうけど、あの海だけは楽しかった思い出を永遠に閉じ込めてくれている気がして……だから俺は、羽石からの誘いを受けたんだ。

羽石と一緒なら、もう一度キラキラした思いに浸れるんじゃないかと、まるで子どもみたいに夢見て。


< 139 / 212 >

この作品をシェア

pagetop