バスボムに、愛を込めて
なによ、その適当な嘘。という目で見てくる葛西を無視して、俺はトドメだと言わんばかりに、普段は絶対にしない笑顔を受付嬢に向けた。
心の中では冷や汗をかいていたが、必死に口角を上げる。
「かしこまりました! 中丸は第三企画部ですので、直接ご案内いたしますね!」
……よし。これで、社内に入れる。そう安堵していた俺に、受付嬢は思い出したように言った。
「恐れ入ります、来客の方全員にお願いしているのですが、感染症予防のため手指のアルコール消毒をお願いできますでしょうか?」
……いつもの俺ならば。アルコール消毒は大好きだ。なんなら全身に吹きかけたいくらい。
でも、今はそのアルコール消毒より好きなものを、一刻も早く迎えに行ってやらなくてはいけないんだ。
「そんなことしてる暇はない。さっさと案内してくれ。でなければこの女が暴走する」
隣に居る葛西は、俺の足をヒールで踏みつけながらも(もちろん手加減してくれたようで俺の足は無事だ)受付嬢をキッと睨んだ。
「は、はいっ! かしこまりました!」
さあっと青ざめて、スプレーのボトルを素早くしまった受付嬢。
俺たちは彼女の後に続き、無事に“敵地”の門をくぐることに成功した。